除夜の鐘があるお寺で私がとり憑かれたのは……
私が恐怖体験というか世にも奇妙な体験をしたのは、小学校4年生の大晦日であった。
当時、12月31日の深夜には近所のお寺で金を撞く、「除夜の鐘」を家族全員で打ちにいった。
その頃の私は夜に出かける事が普段体験出来ない事とあって気が狂ったようにはしゃいでた記憶があった。
除夜の鐘を打つお寺があるのは自宅からほんの10数メートル程歩いた場所にあり、そこの住職とは家族ぐるみの付き合いでとても仲が良かった。
除夜の鐘を撞く作法?(私が勝手に解釈)として鐘に向かって合掌後、108回撞く。108回撞く理由は諸説あるが、月の数の12+二十四節気の数の24+七十二候の数の72=108という計算方式が有名である。
私が除夜の鐘を撞く順番もあり、母・長女・次女・長男(私)・妹の順で撞く。
私が撞く番に周り、鐘の前で作法通り合掌をし、鐘を撞こうと撞木(鐘を撞く大きな棒)を引き、撞いた瞬間「ゴーン」という音の後に「ウワァァン」とおじいさんのような唸り声が聞こえた気がした。
だが、周りには住職(当時50代半ば)と私たち家族しかお寺にはおらず、おじいさんっぽい人はいなかった。
家族や住職に「なんかおじいさんみたいな声で唸り声みたいなん聞こえたんやけど」と相談したが、「なに言うてんねん。じぃちゃんなんかおらんやん。」と一蹴。
私の気のせいかと思い、除夜の鐘を家族全員で撞いた後、帰路についた。
家族と帰路についている間、私だけ家族以外の誰かにずぅっと見られている(尾行されている)ような感じがしていた。
そんな妙な感じを抱いたまま自宅で、先祖の墓参りの準備を行い、再び家を出た。
私の先祖が眠る共同墓地があるのは、除夜の鐘を撞いたお寺からさほど離れていない場所にあり、周囲に街灯があるため深夜でもとにかく明るい墓地だ。
お墓参りは日常的にしていたので特別どうといった事もなかったが、この日だけは違った。
お墓に近づく度にどんどん体が重くなり、先祖と父の墓前に辿り着いた時にはもう足がガクガクになり、一人では歩けない状態に陥ってしまった。
母は私の異様な状態に気付き、おんぶをして移動の補助をしてくれた。
その時、母が唐突に「あんたこんな重かったか?太ったんか?」と言われた。
当時の私は体重が40kg以下の細見だったはず。
「んなわけないやん」と私は応えた。
「大人おぶってる感じしたで」と言われ、私は慌てて「俺のこのガリガリ体型で大人とおんなじ体重てありえへんやん」と言った。
だが私のダルさと重みは増していく一方。
そんな私をおんぶしたまま、家族は墓地の出入口にさしかかった。
すると母が「あんた空見てみ。綺麗な星いっぱいやで」と言ったので、ふと空を見上げた。
確かに星はたくさんあって綺麗だったのだが、その空に明らかに星とは全く区別が付かない白い大きな球体のようなものが、星空の中を左右に行ったり来たりを繰り返しているのが見えた。
「なんか白い球みたいなん浮いてる」と私が言うと、家族には「そんなんあれへんやん」と返ってきた。
どうやら私にだけ見えて他の家族には見えないらしい。
そして出入口から出ようとした時、また「ウワァァン」とおじいさんのような声が私にだけ聞こえた。
ふとおぶさった私が後ろを振り返ると、ベレー帽を被った白装束のおじいさんがニタァァっと笑いながら立っていた。
私はその時恐怖のあまり声が出せなかった。
自宅へ到着して、ようやく安心したのもつかの間、私は高熱を出して体の自由が効かなくなってしまった。
母は慌てて救急車を呼び、近くの病院へ救急搬送してくれた。原因は全く解らず、母も医者も困惑していた。
なぜなら、高熱を出して運ばれたにも関わらず、救急車の車内で検温したら平熱だったのだ。
体の自由が効かなくなったのは3日間も続いた。
母に、「大晦日に変なじいさん墓んとこで見たんやけど、誰なんやろ」と言い、「どんな人なん?」と母が聞いてきたので「ベレー帽被ったおじいさん」と言ったら、母が急に青ざめたような顔をし、「なんであんたその人知ってるん?」といい、母の口から「そのおじいさん、祖父の知り合いの人で、あんたが生まれる数年前に死んでるんやで。うちの祖父と金銭トラブルなってお寺で自殺したんやで。」と。
しかもその自殺したというお寺があの除夜の鐘を撞いたお寺。
私は余計に怖くなって、病院を退院してからすぐ霊媒師の人に鑑定をしてもらったところ、間違いなくそのおじいさんが私に取り憑いていたとのこと。
すぐに除霊をしてもらい、お祓いも一緒にしてもらった。それ以降体の重さは取れ、今現在は何ともない生活を送っているが、今でもその記憶は消えていない。