夜の山小屋での体験
2019/09/18
私の趣味は登山です。
1人で登り、1人の時間を楽しむことが好きという、少し変わった趣向を持っています。
これまで数多くの山に登りました。
そのなかで、常識では考えられない出来事もいくつか体験しています。
そのほとんどは後になって冷静に考えると、単なる勘違いであることが多いです。
しかし、ここに書くことは、今考えても勘違いではない出来事です。
2018年7月13日、忘れもしません。
13日の金曜日でした。
この日、私は有給休暇を取って、長野県の空木岳という山に一泊二日で登りに来ていました。
宿泊は、山の中腹にある「空木岳避難小屋」という山小屋でしました。
管理人はおらず、無料開放している山小屋です。
この山小屋ですが、心霊現象が起こる場所として、登山者の間で噂になっています。
昔、空木岳で大量遭難事故が発生し、この小屋の前に犠牲者の遺体が集められたとか。
さらに、遺体を麓まで下ろすことができずに、小屋の前で火葬したなんて話もあります。
ただし、その話の真偽の程は分かりませんが、私は面白半分でこの小屋を目指しました。
さて、朝早く麓の登山口を出発し、その小屋に着いたのは午後4時ごろでした。
平日に来たので、他に宿泊者はいないだろうと思っていましたが、中年の男性の3人パーティが先に入っていました。
和やかな人たちで、私もすぐに和に入ることができました。
日も徐々に傾きはじめ、食事を取りつつ談笑していると、話はやはりここでの心霊現象になっていきました。
私を含む全員が、この日初めてここに来たとのことで、心霊現象については懐疑的でした。
夜8時ごろだったと記憶しています。
すっかり日は落ち、ライトを付けないと真っ暗闇になってしまいます。
登山では、朝が早いので早く就寝することが基本です。
このときもすでに全員が、寝る大勢に入っていました。
突然、小屋の外から女性の悲鳴のような甲高い声が響きました。
空耳などではありません。
突然のことに4人全員が顔を合わせました。
このとき、その場の空気が凍り付いたように固まりました。
獣か鳥の鳴き声ではないかという人もいましたが、私にはそう聞こえませんでした。
ただ、もし本当に人の声であれば一大事です。
登山中に遭難してしまった人が近くにいるのかもしれません。
そこで3人パーティの内の2人が、外の様子を見てくることになりました。
2人が外に出た後、残った1人と私とで、先程の声について話をしました。
私には人の声に聞こえましたが、もう1人はそうは思っておらず「獣か鳥だよ」と言っていました。
そんなとき、また突然、外から小屋の壁をコンコンと叩く音が聞こえてきました。
再び、空気が固まりました。
外の様子を見に行った2人が戻ってきたのかとも考えましたが、そうであれば普通は玄関から入ってくるはずです。
ここにきて初めて私は恐怖を感じました。
妙な冷や汗が出たことを良く覚えています。
一緒に残った1人も表情が固まっていました。
音はしばらく鳴り響きましたが、忽然としなくなりました。
2人とも固まってしまい、外の様子を確認することはできませんでした。
外の様子を見に行った2人が戻ってきたのは、それから10分ほどしてからです。
結局何も見つけることはできなかったようです。
私たちは先程聞いた音について話しましたが、2人は半信半疑でした。
その後は何も起こらず、浅い眠りを繰り返し、朝を迎えました。
翌日、天候は快晴で気持ちの良い朝でした。
小屋を出て、昨夜、音がした小屋の裏手に行ってみました。
ぎょっとしました。
そこにはたくさんの大きな石が敷き詰められていて、何か窯のような跡があったのです。
黒い焦げのようなものが付いた石もありました。
そのとき私は、この山で昔あったという遭難事故の話を思い出しました。
その後は何事もなく、山頂へ登り、無事に下山しています。
あのとき、小屋の前で焼かれた遭難者が助けを求めていたのかも知れないと思うと、恐怖というよりも同情の念すら浮かんできます。