家裏の地蔵さまを撤去しようとしたら……
今から10年前の話。
私の実家のすぐ裏には、小さなお地蔵様があり、近所の人が花を生けたり、お水やお酒、お菓子などをお供えしてきました。
なぜこんなところにあるのか? というところまではよく知らずに、近所の人が大切にしてきたお地蔵様だったので私も小さい頃から話かけたり、お供えしたりすることが普通でした。
そんなある日、近所の何軒かでお金を出し合って、道を舗装する工事をするから地蔵が邪魔だ! という話になり、撤去する方向へと話が進んでいました。
すでに工事会社の方には相談し日取りが決まっていたところでした。
それは、暑い真夏の日でした。
当時私の実家では、私と父母3人で住んでおり、私個人の部屋はあるのですが自分の部屋で寝るとなぜか必ず金縛りに会っていたので、それが怖くて面倒だったのでいつの日かから父と母の寝室(畳の部屋)で3人で川の字になって寝ていました。
3人で寝るようになってからは、金縛りや変なおかんに悩まされることもなく安心して夜をすごしていたのですが、ある日の晩のこと、恐ろしいことが起きてしまいました。
深夜3時。
真っ暗な部屋。
すやすやと眠るわたしの体にキリッとした悪寒が走ったのです。
次の瞬間今までに感じたことのないくらい強い力で体が締め付けられます。
痛いくらいです。
おそるおそる目をあけると顔が数センチの距離に男の人の顔があり、わたしの体の上にどっしりとのっているのです。
今でもはっきり思い出せますが、目がぎょろりと大きく、頭はハゲちらかしていて、泥まみれでしかもびしょびしょに濡れています。
重い鎧のようなものを身にまとっていて……
もしかして、この人落ち武者?!?!?! と気づきました。
落ち武者は必死に私に語りかけます。
昔の言葉? だったので理解できなかったのですが、戦国時代に生きた自分の生き様を必死に語っているように思いました。
自分はこういうことをしてきたんだ! なのになんで! っという感じに聞こえました。
落ち武者は一生懸命私に訴えてきました。
わたしは「ごめんごめん、わかったから!」と必死で落ち武者をなだめました。
それでも落ち武者は諦め訴えつづけます。
落ち武者の重さでわたしも意識が遠くなっていき、気づけば落ち武者は消えていました。
翌朝、母にこの話をしたところ信じてもらえるわけがありませんでした。
その日業者の人たちが家にきて、工事内容の詳しい話がありました。
その日の晩は、私のところに落ち武者は現れませんでした。
「やっぱり夢だったか。そんな都合のいいことなんかないよね!」とわたしも落ち着いていましたが、朝、母の様子がおかしかったのです。
「見た、落ち武者、わたしのところにも昨日きたの!」と母が言いました。
見た目や雰囲気などがまるで同じでわたしのところにきた落ち武者と同じだったのです。
今度は母に嫌がらせをしたようで、母もやっと私のことを信じてくれました。
しかし、撤去の話は進んでいて決まっているので、今更どうにもできないのです。
すると母がもしかして! という顔で「おじいちゃんおばあちゃんから聞いた話なんだけど、昔この一帯は戦国時代にたくさんの戦があったそうでそのまま生き埋めになっているみたいなのよ。だから供養のために地蔵を立てたとかって聞いたことがある」とのことでした。
思い返してみるとお盆の時期になると武者たちの足音が聞こえたり、火事の夢をみるのはそのせいなのかも? と思いました。
おそらく、一生懸命たたかった武者たちが未だに成仏しきれていないのではないかと母と話していました。
なのに自分たちの都合で地蔵を勝手に撤去されることが武者たちにとっては、自分たちのことを忘れられてしまうのが歯がゆかったのではないかと思います。
なので、落ち武者の気持ちを考えてただ業者に撤去してもらうだけでなく、きちんと供養してお疲れ様でした、頑張りましたねって労う言葉をかけてもらうようにしようと、お寺の方にお経をあげていただきました。
そのあと丁寧に撤去してもらいましたが、あれからは何も起こることはありません。
そういう時代を生きてきた人がいるということを私たちは忘れてはならないと思いました。
戦争を体験したひと、話せる人が少なくなってきています。
いずれはいなくなると思います。
昔あっての今ありということを忘れずに、たまには先祖を思い出して思いやり、今を生きていかなければならないと思う出来事でした。