犬鳴ダムから帰るはずがまた犬鳴ダムへ……
2019/09/02
福岡市の東部に犬鳴峠と呼ばれる山があります。
博多から21号線へ、犬鳴トンネルを抜けて宮若市へ抜ける使いかってのよい道路です。
道路幅はさほどない峠道ですが、それほどワインディングしているわけでもありません。
私の場合博多方面からアクセスし、犬鳴トンネルを出てすぐの所にある犬鳴ダムに数回行ったことがあります。
目的はバス釣りです。
擦れたバスが多いと言われ、実際下手な自分もろくな釣果を出せたことはなかったのですが、先日久しぶりに小ぶりながら数匹ゲットできました。
ダムはトンネルを越えた所で左側にあります。喫茶店を目印に曲がると貯水池の周りを一周して、元の21号線に戻ってきます。
片側に池を見ながら、21号線から最も離れたところに河川公園として池に近づきやすいポイントがあります。
ここに車と止めて岸沿いに少し歩いたところで釣っていました。
思いのほか調子がよかったので周囲が暗くなってきたところであわてて帰り支度を始めました。
地元では有名な話ですが、昔、旧犬鳴トンネルで殺人事件が起きて後、犬鳴峠は福岡でも一番の心霊スポットです。
もちろん、現在の犬鳴トンネルは新しく作られたものであり、旧道はどこにあるのか私も知りません。
物好きが肝試しに行くという話を聞きますが、私としては冗談じゃないと思うばかりです。
この時も失敗したと思いました。
急いで片付けを開始したものの、池の周囲は山ばかりです。
そもそも日中から他に人影はありませんでした。
回りに灯りがないせいで、暗くなるのが異様に早いのです。
明るい内は癒しの風景でも、夜の山奥がこんなに気味が悪いとは。
荷物をまとめ、車に乗り込むと猛然と車を走らせました。
来た方向と逆向きにですが、池の周囲は一方通行になっています。
21号線から時計回りに池の周囲を回っているのですぐにまたダムが見えてきて21号線に合流するはずでした。
うねった細い道、ヘッドライト以外に灯りはない状況でしたから、スピードの出しすぎかとも思ったとのですが、早く離れたかったのです。
なかなかダムが見えてこないと焦っていたら、細い道が少し開けました。
先ほどまで車を停め、釣りをしていた河川公園です。
そんなはずはない、と思いながらそのまま通り過ぎました。
車を停めて確認する勇気はありませんでした。
走りながら横目に見ただけでも見間違えるはずがありません。
河川公園を過ぎるとまた見通しの悪い細い道です。
片側にはもはや真っ暗になった貯水池がたたずんでいます。
片手をオーディオのパネルに伸ばしました。
ラジオを付けて人の声が聴きたかったのです。
その操作に一瞬気を取られた時、視野の端に人影のようなものが見えました。
見間違いだろう。
バス釣りのポイントとはいえ、平日の今日は昼から他に誰もいなかった。
それが、今こんな所に人が立っているのは不自然過ぎる。
気晴らしにラジオをつけようしていたことも忘れてしまいました。
歯をがちがちならしながら猛スピードで。
だしぬけに21号線に合流しました。
あわててハンドルを右に切ります。
ここが貯水池の周りを走る道の出口なら、すぐに入口にあたる喫茶店のポイントに来ました。
ここを右に曲がればまたあの、河川公園に続くわけです。
その道は光が届かず、数十メートル先も見通せません。
あれはどういうわけだったのでしょう。
パニックになって一周よけいに走ったのでしょうか。
一度21号線に戻ったのに間違えてまた池方向へ。
いずれにしても、もうここへは来ないでしょう。
例え昼でも、絶対に。