みえない大人数が住んでいる家
2019/09/01
私が高校生の時の話です。親が経営していた会社が倒産してしまい、住み慣れた家を手放して、すぐにでも別の家を探さなくてはいけませんでした。
なんとか条件にあったその家は、昼間に見に行ったにもかかわらず薄暗く、なんだかとても嫌な気がしました。
しかし、お金もなく選ぶ余裕もなく、仕方なくそこの家に住むことになったのです。
おかしなことに表札も掲げっぱなしだったり、一家が忽然と消えてしまったような、そんなおかしな雰囲気があちらこちらにありました。
近所の方もよそよそしく、電気や水道の契約の方達も、早く帰りたそうでした。
その家は、二階建てではありましたが、二階には一部屋しかなく、薄暗い階段を登ると何故か一番上には鏡が置かれていたのです。
その鏡も、古びて曇ったような、不気味なものでした。
その家に住んでから気付いたのですが、人の気配というか、家族以外にも何かがいるような気がずっとしていました。
でも、我慢するしかないので、気付かないように、考えないようにしていました。
しかし、段々と異変が起こるようになりました。
ある日、夜中にシクシク悲しく泣くような声が聞こえて、私は目を覚ましました。
私の部屋は二階だったので、恐る恐る一階に降りて行きましたが、誰もいません。
両親もぐっすり寝ていましたし、もちろん、近所の声はこんなにはっきり聞こえるはずがありません。
その日は、何も聞かなかったことにして、休みました。
しかし、声だけでは終わりませんでした。
その何かは段々と近づいてくるような気がしたのです。
夜中になると、部屋の前で行ったり来たりするような足音がするようになりました。
そして、天井からは何かにじっと見られているような、そんな気配を感じるようにすらなりました。
住み始めてからずっと気になっていたのですが、天井には何かを引っかけるような古びたフックがいくつもかかっていました。
見られている気配だけでなく、そのフックのあたりから軋むような音もするようになってきたのです。
そしてある日、二階の自室に向かう途中、異変が起きました。
階段を登り終えてふと鏡を見ると、女性が笑っているように見えたのです。
もちろん、振り返っても、そこには誰もいません。
一瞬ではありましたが、笑っている、といっても、ニヤリとしているような、悲しげなような複雑な表情だったのを覚えています。
両親に訴えましたが、両親は二人とも働きに出ていて留守がちで、ストレスが多いせいだからだろうと全く取り合ってもらえませんでした。
そして、決定的な出来事によって、私達は再度引っ越しを決意する事になりました。
その家には大家さんがいるのですが、ご高齢のため、普段の管理は息子さんに任せられていたようです。
その高齢の大家さんが、気まぐれにやってきたのです。
その方は、新しく私達が越してきたことさえ知らないようで、私一人ではどう挨拶をしていいのか困っていました。
しかし、その方の一言で震えあがることになります。
「親戚のお嬢ちゃん?頂きものをもってきたけど、そこのみなさん全員分じゃ足りないかもね。」
未だに事情は分かりませんが、次に消えるのは私達だったかもしれません。