ある夏の日の出来事(鬼門)
それは、ある夏の日の出来事でした。
私の母は飲食店で働いており、勤務の関係上、ほとんど毎日夜勤をしていました。
なので、夜は家には他の家族だけになるんですが……
いつも、夜の決まった時間に家を出て仕事に向かいます。
そんないつもと変わらぬ日常の夏の日でした。
いつものように母が仕事に行った後、私もそろそろ自分の部屋に戻って休もうかな、と思い廊下を歩いていたところ、母がキチンと閉めて行ったはずの玄関のドアが勝手に開いたんです。
夜の戸締りにはうるさい母だったので、その時は、母が何か忘れ物でもして取りに戻って来たのかな? と思ったんですが、開いた直後からしばらく玄関を見つめていましたが結局母はおろか誰も入って来ず……。
一体何だったんだろう?
何かの見間違いだったかな?
と、不思議に思った反面、もし外に誰か居たとして1人で玄関や玄関の外まで何か居ないか見にいくのは怖いな……と思い、とりあえず他の家族にはドアが勝手に開いた事は言わずに、ドアを閉めておいて、とだけ頼み私は部屋に戻ろうとしたところ今度は何と開いていたはずの玄関のドアが勝手に閉まったんです。
これは本当におかしい、と感じたので、家族に無理を言い一緒に玄関の外まで見に来てもらいました。
辺りには街灯が1本立っているだけで何の姿もなく、もちろん、人影すらありませんでした。
家の周りも家族と見回ったんですが案の定、何もありませんでした。
玄関の話を家族にすると、驚いたような顔をしたと思えば、途端に何か思い出すような素振りをしました。
尋ねてみると、実は今私たちが住んでいる家は、昔は幽霊(?)が出ていたそうなんです。
本当に偶然なんですが、母の職場に居る方が私たちが今住んでいる家に以前、住まれてた方がいらっしゃったので、確認の為にもその方に玄関のドアの話を聞いてもらったところやはり、その方が家に住んでいた頃から幽霊らしきものが出ていたそうです。
玄関のドアの話をすると、そんなものは全然怖くないし日常茶飯事にある事だと言われました。
じゃあ、昔はどんなのが出てきてたの? と聞くと、昔は天井から女の人が見下ろしていたり、障子の間から男性の方が覗いていたりと……今では考えられないような恐ろしい現象が毎日のように起きていたそうです。
何故そんなにも幽霊らしきものがあの家に出てくるのかというと、ご近所の方の話によれば私たちが住んでいる家は、鬼門、と呼ばれる位置に建っているみたいで、鬼門とは、幽霊の通り道と言われているらしいのです。
その鬼門こそが原因なんじゃないかな? と話してくれました。
家族も、その話を聞いて、そういえば昔あったこんなことって……と、色々と思い出すことがあったのか口々に話し始めました。
どうやら、今も昔も全て鬼門、と呼ばれる位置に私たちの家が建っているのが幽霊さんたちが出てくる原因だという事が判明しました。
ですが、その話を聞いたところですぐに引っ越せるわけでもなく月日は経ち、わたしたちの脳裏からもその記憶は薄れかけ、やがて家族も独立していき今では私と母の2人で暮らしていました。
それ以降、私の記憶に残っているような大きな出来事は無かったですが……
もしかしたら気付いていないだけなのかもしれません。
そして私たちは仕事の関係でその家から引っ越すことになりました。
今でもたまにその家の事が気になり車で通りがかりに見ていますが、引っ越す前と何の代わり映えもないままひっそりと影に隠れるように街灯の下に建ち続けていました。
またまた、以前住んでいた方に出会う機会があったので、家は建てかえたり新しくはならないの? と疑問をぶつけました。
話を聞くところによると、以前住んでいた家は消防法の関係上で、取り壊しも、立て直しも何も出来ないみたいです。
確かに、大きな機械やトラックが入れる程の道幅は無いですが、昔と変わらぬままずっと建ち続けていて、誰もいなくなったあの家の中では、何か不思議な現象が起こったり、昔から住んでいるであろう幽霊さんたちは、一体どうなっているんでしょうか。
疑問に思いましたが、怖がりの私にはとてもですが、家の中を覗く勇気はありませんでした。
そんなある夏の日の出来事でしたが、ふと今思い返せばその日は夏休み中でちょうど、テレビで怖い番組が放送されていたのが記憶にあるのでそのテレビを見ていた私たち家族の姿や悲鳴に釣られてずっと眠っていた幽霊さんたちや外から遊びにきていた幽霊さんたちも出てきたのかもしれないですね。
事故物件、ということにまではならないと思いますが、その当時まだ幼かった私の中では、今でも忘れられないくらい鮮明に覚えている大きな出来事でした。
もちろん、違う家に引っ越した今では、そういった不思議な現象が起こることもなくおかげさまで毎日平和に暮らせています。
あの家に住んでいる幽霊さんたちは今でも何所かを彷徨う、あるいは家の中でゆっくり羽を伸ばせているんでしょうか。